IFSMA便りNO.66

IFSMA ヘルシンキ総会

(一社)日本船長協会 理事 赤塚 宏一

 

 2019年度の総会は9 月下旬、ヘルシンキにて16ケ国、30数名が参加して開催された。今年の総会はインドのニューデリーで第1 回国際船長大会としてデジタライゼーションを主題としたセミナーと並行して行われる予定であったが、残念ながらインドでのセミナーが資金不足で開催出来ず、総会も宙に浮いたところをフィンランド船舶職員組合が助け舟を出し、急遽ヘルシンキで開催が決まったものである。今回はこの春に筆者の後任として副会長に就任した井上一規氏と出席した。総会は新たな3 名の副会長選挙結果を巡って意見が強く対立するなど少々異例の会議となった。

1.フィンランド

 日本とフィンランドの関係は、日本が1919年(大正8 年)にフィンランドを国家承認(事実上の承認)し外交関係を樹立したが、2019年の今年は外交関係樹立100周年記念の年となる。しかし両国共に特に目立った行事もなかったようである。
 フィンランドの人口は約550万程度でこれは北海道の人口528万人よりやや多い程度で、首都ヘルシンキには約100万人が住んでいる。
 船員の数については、ICS/BIMCO の2015年のMANPOWER REPORT によると職員は3,819人、部員は16,598人で合計20,417人となっている。フィンランド船舶職員組合(Finnish Ship’ s Officers Union) はいわゆる海員組合である。組合費は組合員それぞれの課税対象となる所得に対して一定のパーセンテージを掛けたものだという。現在の組合員数は約1,600人でその内の600人は陸上勤務や退職した元船員だという。組合長はC a p t Johan Ramsland である。
 フィンランドは経済規模は小さいが、一人当たりGDP などを見ると豊かで自由な民主主義国として知られている。

2014年のOECDレビューにおいて「フィンランドは世界で最も競争的であり、かつ市民は人生に満足している国の一つである」と報告された。フィンランドは収入、雇用と所得、住居、ワークライフバランス、保健状態、教育と技能、社会的結びつき、市民契約、環境の質、個人の安全、主観的幸福の各評価のすべての点でOECD 加盟国平均を上回っている。何をもって幸福と考えるかは別にして国別の幸福度ランキング1 位と言うことであろう。
 ヘルシンキにはロンドン在勤中に何度か会議で訪れたし、またクルーズで寄港したこともある。ヘルシンキといえば私達の年代では1952年に第二次世界大戦後、初めて日本がオリンピックに参加を許され、レスリング・フリースタイルで石井庄八選手が唯一の金メダルを獲得し、日本中が歓喜に沸いたことを思い出す。私のような地方都市の中学生はレスリングなど見たことも無かったが、憧れたものである。
 音楽ではあまりにも有名なシベリウスがいる。その「フィンランディア」の主旋律は讃美歌にも採用され、改革派の教会では時々歌われる。次席三等航海士として初めて乗船した箱根山丸のサロンにはステレオが置いてあり、3 、40枚のLP レコードがあったが、その中にシベリウスの「トゥオネラノの白鳥」があった。誰がこんな陰気なレコードを買ったのかと訝りながら時折聞いた。何度も聞いている内に闇夜にかすかな川明かりのなか、白鳥が泳いでいるイメージが浮かぶようになった不思議な曲である。


2.韓国船長委員会の参加

 韓国の海技士協会から派生した韓国船長委員会 (Korea Shipmasters’ Committee) が今年の夏に結成されたことはお伝えしたと思うが、「今回の総会に韓国からの出席があるよ」とのメールがIFSMA 事務局次長から届いていたので、会えるのを楽しみにしていた。総会に出席したのは同委員会の委員長であるCaptain Gwee-Bok Lee である。船長を経験した後、仁川のパイロットを約20年務め、最近退職したとのことである。韓国ではIMO事務局長のイム・ギテク氏が帰国するたびに海技士協会に対してIFSMA に加盟してはどうかとの話がでたとのことである。なお、イム・ギテク氏には2017年にIFSMA の名誉会員になって頂いている。

 Capt. Lee は2 日間の総会や夕食会などを通して多くの船長に会い、また国際的な海事社会が直面する問題などに触れ、IFSMA に対しても好感を持ってもらったと思う。筆者も出来る限りの情報提供とIFSMA に加盟することの意義、海上にある現役の船長の支援や後輩のための労働環境や社会的地位の向上の為に尽力する義務などについて意見を交換した。韓国がIFSMA に加盟してくれることを心から望んでいる。
 今総会には久しぶりにフィリッピンが参加した。フィリッピンのSociety of FilipinoShip Captains, Inc. 通称 Filscapts は2010年にマニラで総会を開催して以来、総会に殆ど顔を見せなかったのだが、今回は旧知のCapt. Victor S. del Prado 会長が出席した。
また、本年IFSMA に加盟したインドネシアのIndonesia Merchant Marine Officer Association の会長である Capt Dwiyono Soeyono が初めて参加し、インドネシア内航海運においてはびこる不正海技資格証書の問題とマラッカ海峡におけるパイロット・サービスの概要についてプレゼンをした。
 フィリッピンは機会があればアジア地区の船長協会、すなわちフィリッピン、日本、インドネシア、韓国、台湾そしてシンガポールが一堂に会する機会を探ってみたいと言っている。


3.副会長選挙

 現在の副会長は7 人(オランダ、デンマーク、スウェーデン、ドイツ、アメリカ、アルゼンチン、日本)であるが、昨年のブエノスアイレスにおける総会にて規約を改正し10名とすることとなったことは報告済である。会長と副会長及び事務局長よりなる理事会が実質的な意思決定機関であり唯一の執行機関である。従って理事会メンバーにならぬ限り、情報は入りにくいし、IFSMA としてIMOや他の国際機関への出席などの実質的な活動がしにくいのが実態である。また会長がノルウェー人であり、役員は欧米に偏っているのは明らかである。このため地域的なバランスをとるために副会長の増員を決めたところである。そして増員となる3 名の副会長に以下の4 名の立候補があった。

 トルコ Capt Birol Bayrakdar Turkish Ocean-Going Masters’ Association デンマーク C a p t S u n e B i n k e n b e r g Danish Maritime Officers
チリー C a p t J u a n G a m p e r N a u t i l u s(Chile)
ウクライナ Capt Oleg Grygoriuk Maritime Transport Workers’ Trade Union of Ukraine

 今総会には久しぶりにフィリッピンが参加した。フィリッピンのSociety of FilipinoShip Captains, Inc. 通称 Filscapts は2010年にマニラで総会を開催して以来、総会に殆ど顔を見せなかったのだが、今回は旧知のCapt. Victor S. del Prado 会長が出席した。
また、本年IFSMA に加盟したインドネシアのIndonesia Merchant Marine Officer Association の会長である Capt Dwiyono Soeyono が初めて参加し、インドネシア内航海運においてはびこる不正海技資格証書の問題とマラッカ海峡におけるパイロット・サービスの概要についてプレゼンをした。
 フィリッピンは機会があればアジア地区の船長協会、すなわちフィリッピン、日本、インドネシア、韓国、台湾そしてシンガポールが一堂に会する機会を探ってみたいと言っている。
 投票権は登録会員数により異なり、日本船長協会は3 票あり、これは井上副会長が行使することとし、筆者は個人会員を代表して、その投票権2 票を行使した。
 投票の結果はチリー、デンマーク、ウクライナが当選し、トルコは残念ながら落選した。デンマーク出身の現在の副会長 F r i t z Ganzhorn は今年の春にデンマーク船舶職員組合の事務局長を辞任したが、個人会員としてそのまま副会長に残留したのだが、組合は後任の事務局長を副会長として立候補させた。これをデンマークと関係の深いノルウェーやスウェーデン、フィンランドなどいわゆる北欧諸国が支持し当選を決めたのである。この結果地域的なバランスがますます崩れたように思われる。
 選挙後、トルコと関係の深いドイツ出身の会長代理が、「選挙の結果に異議を申し立てることは出来ないが」と前置きして、「投票権に関するIFSMA の現行の規約、すなわち登録会員数に基づく投票権は必ずしも民主的な方法ではないのではないか」とコメントした。これに対して、最大の会員数を登録しているノルウェー出身のCapt Hans Sande 会長がいつになく強く反論した。すなわちノルウェーは3,560人の会員を登録し、そのうち船長は2,000人にのぼる。ノルウェーはこの2,000人の船長の意向を反映させなければならない。2,000人の意向と100人の船長の意向を同一に扱うのは、それこそ反民主的ではないかというのである。登録会員数は即、各国船長協会が支払う年会費に直結するところから発言が相次ぎ、落選したトルコも選挙の結果に不満を漏らし、現行制度では弱小協会の入会を抑止することになるのではないかと指摘した。議論がエスカレートしてきたので、筆者も中に割って入り、現行の規約に問題があると考えるのであれば、規約に則り文書にして改正案とともに事務局に提出すれば理事会・総会で十分審議できるので、この議論はこのへんで止めようと呼びかけ、議論に終止符が打たれた。
 会議後、トルコのCapt Birol Bayrakdarに声を掛けたが、彼はトルコの欧州連合加盟問題と同じく、いまだにヨーロッパには偏見と差別がはびこっていると憤懣やるかたない。折角副会長を10人にまで増員し、地域的なバランスを図ったのに、結果的には欧州勢が圧倒的多数となった。すなわち 会長、会長代理、副会長10人の合わせて役員12人の内、欧州 8 人、北米 1 人、南米 2 人、アジア(日本) 1 人である。さらに事務局長、次長は英国人であることを考えるとこれはもう白人の組織に他ならぬ。もちろん彼らがほとんど手弁当でIFSMA を動かしてくれているのは感謝するが、国際団体として今回の選挙に当たってはもう少し配慮が欲しかったと言わざるを得ない。また筆者の読みも甘く、何ら積極的に動かなかったのも悔やまれる。今回の選挙がしこりとなって残らぬようにと祈るばかりである。


4.事務局長報告

 総会では事務局長の報告が最もインパクトがあった。IFSMA の活動はそのほとんどがIMO 関連であり、ここでの事務局の活動がIFSMA の活動そのものであるというのが実態である。以下に事務局長報告を書き記してみよう。文中、私とあるのはCommodore Jim Scorer 事務局長のことである。

(1) 政府職員等による海事関連腐敗(汚職)
 問題がFAL の作業計画として認定
 昨年6 月、IMO の通商簡素化委員会 (FAL)にて港湾局等の政府職員等による汚職が船長に如何に重大な影響を及ぼすかと発言したところであるが、その結果2011年に設立された匿名報告サイトである「海事反腐敗ネットワーク(M a r i t i m e A n t i – C o r r u p t i o n Networks)」のCross Industry Working Group にIFSMA を代表して参加することとなった。 そして最初の会議においてICS (国際海運会議所) とITF (国際運輸労連) と共にいかにして本件をIMO の議題として採用させるか検討したところである。 結果的にこの三者が主となって作成した文書にはリベリア・マーシャル諸島・ノルウェー・英・米・バヌアツといった加盟国が共同提案国となり、今年4 月の第43回通商簡素化委員会にて今後の作業計画の一つとして合意されたのである。 我々の戦略は海事関連の腐敗・汚職問題について国際海上交通の簡易化に関する条約(FAL 条約) の附属書の再検討・改正やIMOの関連するガイドラインやベストプラクティス・コードに反腐敗活動を位置づけることを視野に入れて議論されることである。 さらにIMO の技術協力委員会 (TCC) とも連携し、「腐敗の防止に関する国際連合条約 (United Nations Convention Against Corruption)」との整合性を図ることである。 本件に関しては10月に開催されるIMO の理事会にて承認されることとなると思われるが、この腐敗・汚職問題がIMO で取り上げられるのは初めてのことである。 なお、この海事反腐敗ネットワークには既に2 万8 千件以上の腐敗事例が報告されているとのことである。
(2) 船員の人的要因
 IMO の会議において船員の人的要因問題について発言を重ねてきたが、これをIMO事務局長が高く評価してくれ、IMO の諮問機関をメンバーとするH u m a n E l e m e n t Industry Group を結成するように要請された。このグループはこれまでのIMO の規則を今一度、人的要因をベースに見直すことを中心に働きかけ、多くの加盟国の支持も得ている。 その一つが「閉鎖区域への進入」に関する問題で、少しでも船員の犠牲者を減らすべく、この問題に関する全体観的なアプローチによる提案文書を来年早々にも提出することを目指して作業をしている。
(3) 救命艇
 救命艇操作の安全を確保することを目的とする I n d u s t r y L i f e b o a t G r o u p の中でIFSMA は最初から最も熱心なメンバーである。 今年の初めに他の多くの同志とともに救命艇の安全に関するレヴェルを上げるために救命設備コード(LSA コード)のなかの離脱装置に関する改正案を提出することが出来た。
(4) 環境問題
 IFSMA は環境問題には常に強い関心を払っており、海洋プラスチックごみ問題と重要かつ難題である温室効果ガス問題の作業部会のメンバーである。特にこの温室効果ガス問題は船主及び船員にとってもっとも関心の高い問題で、ICS (国際海運会議所) や他の団体とも連携を密にし、一方的に運航速度規制がかけられ、それによって船舶の操縦性が損なわれ、ひいては船員を危険におとしめることの無いように努めている。
(5) 船長の犯罪者扱い
 船長及び船員の犯罪者扱い問題はIFSMAのキー・チャレンジの一つであり、事務局長としてあらゆる機会にこの問題を提起してきた。 今回は欧州連合の安全保障・防衛委員会にて地中海における難民救助に関連し船長が犯罪者扱いとされる可能性について発言をする機会を与えられた。 この結果、IFSMA は人権に関する委員会において、各国政府に対する「地中海における難民の取扱いに関するガイダンス」作成に関与し、幾つかの章において船長の犯罪者扱いに関し意見を表明することが可能となった。
 この6 月、ドイツのNGO、 “Sea Watch”に所属する船舶のドイツ人船長がイタリア当局に逮捕されたことはご存知だろう。 この“Sea Watch” は地中海を基地として主として、遭難した難民の救助にあたっているのであるが、この事件は救助した難民をイタリアに上陸させようとして船長が逮捕されたものである。 イタリア当局は本船がイタリア警察の内火艇に衝突したとし、さらには船長を「密輸及び人身売買・取引(people trafficking)」の罪でも起訴すると脅迫している。
 当然の事ながら、本件に関してはドイツ船長協会は強い危機感を持ち、イタリア当局による船長の逮捕を非難するプレスリリースや関係各国・団体への働きかけをしたが、IFSMAもこれに積極的かつ全面的に協力した。 「衝突」に関する起訴は取り下げられ、現時点では他の公訴も提起されていないが、船長に対してはいかなる嫌疑も掛けられるべきではないと確信している。
(6) AIS (船舶自動識別装置) の濫用
 米国船長協会の会員により報告されたAIS の濫用について、今年初めにあらためてIMO にて提起しインパクトを与えることが出来た。AIS を漁網や漁具、浮標に装着し、あるいは漁船になりすますなど航海者を混乱させるAIS の乱用、さらには不正な使用などが問題となっている。 本件に関しては、IMO/ITU (国際通信連合)の諮問機関であるCIRM (Comite International Radio-Maritime 国際海事無線会議) も多大の関心を持っており、このAIS に替えてAutonomous Maritime Radio Devices (自律型海上無線機器 AMRDs) への切り替えを働きかけている。順調に審議が進めばAIS の濫用は早い時期に違反行為として認定されるであろう。
 AIS 問題に関連してIMO で提起され教訓を得た事実、すなわち各国の海難調査報告書から明らかになった事実は航海士の多くはAIS に頼り過ぎ、適切な見張りを怠り、またAIS を衝突回避の手段として依存しているという極めて憂慮すべき事実である。事務局長として、各国船長協会の会員であり海上にある船長に是非この事実を伝えて欲しい。 彼ら船長は自分が必要な休息を取っている間、当直航海士が適切な見張りをしているか確信を持てるのだろうか。私は今一度皆さんに言いたい。
 “AIS CAN PROVIDE SUPPORTING INFORMATION ONLY !”
 「AIS が出来るのは情報提供だけだ!」長い時間を掛けて海技資格取得のための教育・訓練をうけ、STCW 条約コードやモデルコースを習得し、晴れて乗船したのに最も基本的な船乗りとしての職務、「見張り」を怠って一生を棒に振るような事態を招かないように切に望んでいる。
(7) STCW 条約の改正及び自動運航船
 S T C W 条約は2010年のマニラ改正以来、間もなく10年となる。ICS (国際海運会議所)なども指摘しているように、IFSMA も条約の包括的な見直しが必要な時期が来ていると理解しており、これが近い将来に起こることを望んでいる。そうなればIFSMA としては各国船長協会のSTCW 条約に関するエキスパートにぜひ審議に参加して欲しいと考えている。 これはIFSMA のキー・チャレンジの一つである会員から海上において必要とされる実践的な技能や知識を得るためである。 IFSMA はSTCW 条約改正審議に於いて影響力を発揮しなければならない。そして船長自身がもっと船内に於いて乗組員の教育やメンタリングに関われるような環境を整備したい。改正作業についてIFSMA はビデオ会議などを積極的に利用して会員の負担を軽減することを考えている。
 船舶のデジタライゼーション、そして海上自動運航船はIMO 海上安全委員会における最も関心のある議題であり、IFSMA はそのRegulatory Scoping Exercise WG (RSE WG: 現行基準の改正の要否、新たに必要となる基準等についての検討を行う作業部会)で活発に活動している。この問題については欧州各国の船長協会会員やその顧問弁護士などの強力な支援をうけている。
(8) 船舶航路管制
 IMO の航行安全・無線通信・捜索救助小委員会(NCSR-Sub Committee)はIMO 決議 A.857(20)「 VTSに関するガイドライン」を見直しているところだが、この見直しはIALA (国際航路標識協会)が主となっておこなっており、このIALA のVTS 委員会にIFSMA も参加しており、船長及び本船の安全を確保するべく努力していることを報告したい。
(9) 広報活動 ― ペルシャ湾の安全確保
 キー・チャレンジの最後の一つはIFSMAの広報活動である。広報活動の目的はIFSMA が現役の船長の声を国際的に代弁することにある。
 中東及びペルシャ湾の一連の危機、今年の春から起きているタンカーの拿捕や攻撃などはIFSMA の会員であれば強い危機感と関心を寄せることであろう。まさに船員と船舶に対する直接的な攻撃であり、決して座視すべきものではない。この問題に関して私は3 度、BBC ワールド・サービスのラジオ及びTVのライブ・インタビューを受けた。これは取りも直さずB B C 等のマスメディアがIFSMA を世界海運及び世界の船長・船員の声と理解しているものと考えられる。 IFSMA としては現在種々のチャンネルで行われている外交努力により事態が収束することを願っている。
 IFSMA 事務局はNATO Maritime CommandHeadquarters と連絡を取っている。NATOは司令部の出先機関を中東に展開しており、船舶の安全に関わるような情報は遅滞なくIFSMA にも配布されるような手はずとなっている。
 以上が事務局長の報告の概要であり、続いてIFSMA の小さな事務局 (パートタイマーの事務局長と次長のみ) でこれらの業務を果 たす上での苦労、そし各国船長協会、とりわけ、英、オランダ、ノルウェーの会員の協力 と支援が如何に大きいかが述べられ、謝辞が贈られた。 このような各種の会議に参加した経験のある者として、いかに大変な仕事であるかが良く理解できる。報告のあと、日本船長協会として事務局及び欧州の船長協会に感謝の言葉を述べて置いた。
 なお、「海事反腐敗ネットワーク (Maritime Anti-Corruption Networks MACN)」及び「人的要因」については、後程それぞれの専門家によるプレゼンがあった。また「船長の犯罪者扱い」については、ウクライナの船長協会がスリランカ籍船の船長であるウクライナ人のCaptain Gennadiy Gavrylov が2015年10月、スリランカで本船による武器密輸の疑いで捜査を受け、翌2016年6 月23日に逮捕され、以来4 年にわたって同国からの出国が禁じられている現状を報告し、早期の保釈を求めるアッピールを行った。


5.講演について

(1) 「船長、母校へ帰る」
 井上副会長が “Captain returns to his Alma Mater” と題して、当協会の「子供達に海と船とを語る」事業活動を多くのスライドを交えて紹介した。具体的な講義の様子や船内や造船所の見学のスライドなど活動の実態が良く理解出来て好評だった。プレゼン資料を欲しいというリクエストもあった。
 帰国後、ルーマニア船長協会からメールが入り、同国で「船長、母校へ帰る」と同じようなプロジェクトを立ち上げたいと考えている。 具体化すれば是非支援をお願いしたいとの要請もあった。

(2) “Overriding Authority – And How to Defend It.” 『船長の超越権限 これを如何にして正当化するのか』
 これはドイツ北部のCuxhaven にベースを置く米国系の海事法律事務所の弁護士がプレゼンしたもので、筆者にとって一番興味深かった。

 海運市場の不況と競争の激化にともない船主や運航者は容赦のないコスト削減と法律に抵触しかねないギリギリのオペレーションを船長・船員に要求してくる。 船長・船員として作業の合理化、運航の効率化、能率の向上、そしてコストの削減は当然だとしても越えてはならない一線がある。 それはSOLAS 条約、MARPOL 条約、STCW 条約そして海上労働条約(MLC)などに明確に規定されている。
さらに船長は “Overriding Authority”、時には法律にもとらわれず、本船,積み荷、船客、乗組員、環境にとって最良と判断できる行動をいつでも取れる自由裁量権があるとされている。
 しかし船長が船主や運航船社と違う判断を下す場合には十分な根拠を示さなければならない。そのためには日付入りの写真を撮る、関係者・目撃者の証言を記録し署名を取り付ける、専門家(検査官など)の証書を取得する、海難報告書の提出等々、事細かく説明したものである。
 彼の講演は終始船長・船員の側にたったものであり、また船長の職務は全て法の世界“The Captain’ s World is Law” とも繰り返し、法律を知ることの重要性を強調していた。 また船長に全幅の信頼を置き、以下の様にも言っている。
 “Your decisions, based on good seamanship, can be supported with evidence. If they are, do not fear any second guessing . The owner and the charterer may complain, but in the end, they both on you to get the crew, vessels and cargo to its destination safely.”
 そして最後に「ISM コードもSOLAS 条約も全て船長の力強い味方だ」と述べて終わった。
 このプレゼンのスライドはいずれIFSMAのホームページに載るはずであり、興味のある方は参照して欲しい。


参考資料 LRO News topics Apr. 180419
 URI:http://orca.cf.ac.uk/id/eprint/117480
「ISM コードの解説と検査の実際」国土交通省海事局検査制度課 監修
 


LastUpDate: 2024-Apr-17