IFSMA便り NO.89

IFSMA東京総会開催について

(一社)日本船長協会 理事 赤塚 宏一

 

はじめに

 IFSMAの第47回総会が本年10月に東京で開催される事となった。1974年の創立以来、年次総会として毎年開催してきたが、2019年以後は隔年開催、すなわちBiennial General Assembly (BGA) として開催されることとなった。しかし2021年は新型コロナウィルスが世界的に蔓延していたため、初めてのオンラインによる総会となった。従って今回東京で開催される総会は 4 年振りの対面による総会となる。 IFSMAは組織運営の為の機関として総会及び理事会の組織があり、さらに特別な事案、たとえば自動運航船に関わるコード(MASSコード)などのIMOにおける審議については、都度作業部会を設置して対応に当っているものの参加者は欧州在住の専門家が殆どとなる。従って一般会員が参加出来るのは総会が事実上唯一の機会となる。もっとも、こうしたことを考慮して理事会のメンバーは創立当時、会長、会長代理 1 名、副会長 2 名及び事務局長の 5 名であったものが、広く主要メンバーの意見を聞く必要から、現在では副会長が10名となり、理事会メンバーは総勢13名となっている。とは言え、総会は理事会以外のメンバー、特に個人会員が参加し、直接議事に関わり、また総会の行事となっているシンポジウムでは発表する機会も得られるのである。
 総会を東京で開催することはIFSMAの第三代会長(1994年〜1998年)を務められた故川島裕船長(商船三井出身)の悲願でもあった。これを踏まえて今回の総会を少しでも実り多いものとしたいと念願している。


IFSMAの創立

 これまでにも「IFSMA便り」で何度か書いてきたのだが、念のため書いておきたい。
 IFSMAは海事社会、とりわけIMO関係者からの要請により、1974年欧州の 7 船長協会(フランス、ノルウェー、オランダ、イタリー、ドイツ、ベルギー、アイルランド)及び南ア船長協会により設立された。翌1975年には早くもIMOの諮問機関の資格を得、IMOの審議に参加した。諮問機関の資格審査には通常2 〜 3 年かかるのが設立の翌年には資格が認められたのは、いかに船長を代表する国際的な団体が望まれていたかの証左である。これは折から審議中であった「船員の訓練及び資格証明書並びに当直の基準に関する国際条約(STCW条約)」に是非とも船長を代表する国際団体の主体的な関与が必要であったのである。IFSMAの審議参加もあってか、STCW条約策定の審議は順調に進捗し1978年に採択、日本はこの条約を1982年に批准し、そして1984年に国際条約として発効した。
 船長・船員にとって最も重要なSTCW条約については当然のこととして、殆どの海事関係条約・法令には船長の権利と義務・責任が記載されている。こうした国際規則を審議するにあたり、船長を代表する団体の存在は不可欠である。
 言うまでもなくIFSMAは営利団体ではなくまた政治的な組織でもない(apolitical)。唯一の目的は現役船長の利益を代表し、安全な運航慣行の維持、海洋環境の保護及び船舶における乗客・乗組員及び財産の安全を確保するために船長及び乗組員の専門的な能力の向上と社会的地位の向上を図ることに主力を注いでいる。これを実現するためにIFSMAはIMOを主たる活躍の場としているが、またILO(国際労働機関)においてもNGOとしてのリストに掲載されオブザーバーとしての地位が認められている。さらにITU(国際電気通信連合)、IALA(国際航路標識協会)などにおいても船長の権利義務を明確化し、海上における安全と海洋環境の保護、そして船長の社会的な地位の向上のために最大限の努力をして来た。
 日本船長協会は1985年に加盟し、当時日本船長協会の会長であった故川島裕船長は1994年から1998年の 4 年間、三代目IFSMA会長として奉職した。しかし、残念ながら日本船長協会は2003年にアルゼンチン債による損失のため財政難となり、IFSMAを脱退することとなった。脱退後、当時日本船主協会の欧州地区事務局長としてロンドンに在勤していた筆者が個人会員として参加し、IFSMAと関係を維持しつつ日本船長協会の財政再建を待つこととした。IFSMAも海運大国で主要メンバーである日本船長協会が脱退することは大きな痛手で、IFSMA役員も事務局も再加入を期待かつ促進すべく筆者が役員に立候補することを求め、20年以上会長代理・副会長を務めることとなった。IFSMAの強い働きかけもあって、その後 5 年間のブランクを経て当時の森本会長を始め執行部の尽力で2008年に再加盟したのである。

IFSMAの運営と活動  

 船長個々人の会費にのみ頼るIFSMAは設立当初から財政的・人的な脆弱性は本質的なものであった。これまで役員を始め事務局員は殆どボランティアとしてIFSMAを支えて来た。当然の事ながら、会長を始め役員は言うまでもなく無給で、理事会・総会出席のための旅費宿泊費などは全く支給されない。IFSMA事務局は創立以来IMO近くのLambeth Roadにある由緒あるMarine Society の一角にあったのであるが、家賃の安い事務所を求めて転々とし現在はWaterloo に近いITF(国際運輸労連)の本部であるITF House の一角に事務局を置いているが簡素なもので、いわばテレワークを先取りしたような形態となっている。
 IFSMAの2022年の収支は収入(会費)が£122,358 でこれを 7 月25日付銀行間換算率¥185.50で計算すると22,697,409円で支出は£88,090(16,340,695円) となっている。支出のうち、人件費は£72,195 (13,392,172円)となっており、これを事務局長と事務局次長に支払っている。 2 人とも契約上はパートタイマーとなっているが、この 2 人でIMOの会議に出席し、会議対処方針を作成し、報告書を作成・回覧し、その他の会議に出席し、また講演を行い、News Letter を編集・配布し、会費を集め、経理処理、庶務、理事会・総会の準備、議事録の作成などを行い、また会員からの照会に応じるなど、実態はほぼfull time となっている。円に換算した人件費はそれなりの金額となっているが、これは大幅な対ポンドに対する円安と欧州でも突出している英国のインフレを考えると事務局に対する妥当な対価とは考えられない。
 このようにIFSMAの運営は船長としての誇りと責任をもって船長のため、ひいては国際海事社会のため活動をしている各国の熱意ある船長達の奉仕によって支えられているわけである。
 コロナ禍におけるIFSMAの活動についても触れておきたい。これらについては都度「IFSMA便り」で触れたが改めて少々述べてみる。
 コロナ禍において、海事関係者のなかで最も打撃を受けたのは乗船中の船員とその交替要員である。各国の厳しい入国制限にともない、多くの船員が契約期間を超過しても下船・帰国出来ず 1 年以上も乗船勤務をせざるを得ない状況も生じていた。
 このような状況を踏まえ、IFSMAは海事関連団体の中核メンバーとして、ICS(国際海運会議所)やITF(国際運輸労連)などと連携を密にし、IMOやILOなどに働きかけ、結果的にこのグループの作成した文章を基にIMOは、コロナウイルス(COVID-19)パンデミック時の港での船員交代を容易にする枠組についての加盟国への勧告を含む、2020年3 月27日付の回章を発出した。
 またIFSMAは状況のさらなる悪化に留意し、緊急の理事会(テレビ会議)を開催し、2021年 5 月20日には各国政府に対する公開書簡の送付、そしてさらに 6 月 8 日付で世界の船長に対し、コロナ禍に伴う様々な問題対処のための手引きともなる公開書簡を発出した。さらにIMO会議での積極的な活動や国連を始めとする関係団体に直接働きかけるなど行動を活発化させた。
 こうした精力的な活動の結果、乗組員交替問題は各国政府に取り上げられるのみならず、国連事務総長やローマ教皇も本件に関して特別声明を発表するなど、その活動は大きな成果を挙げたと自負している。
 さらにロシアのウクライナ侵攻が船員、とりわけウクライナ船員に及ぼしている影響にはこれまで何度も触れてきたのでここでは割愛するが、後述の 7 月に開催された理事会においてウクライナ船長協会のCapt Oleg Grygoriukと直接交信する機会があった。理事会は対面及びオンラインでおこなわれたのだが、彼はオンラインに参加出来なかったため、IFSMA会長が電話をしたところ運良く繋がった。Capt Oleg Grygoriukは何としてでも東京総会に出席し、ウクライナ船員の苦境を広く世界に訴えたい、また2025年にはIFSMA総会をオデーサで開催し、その復興への努力を見てもらいたいと意気込みを語った。しかし黒海穀物輸送協定の失効と共にロシアによるウクライナの主要港であるオデーサに対するミサイル攻撃が激しくなり、彼も訪日を諦め、また2025年に替わって2027年にオデーサで総会を開催することを提案している。

 

IFSMA総会開催要請  

 日本船長協会は1950年に創立され1990年に創立40周年を迎えた。日本船長協会はこの年にIFSMAに加盟して満 5 年になるところから、1990年のIFSMA第17回年次総会を日本に誘致すべく1989年のIFSMA第16回年次総会に正式招請状を提出したのだが、川島裕会長の事前の調査と根回しにもかかわらず、開催地の日本が加盟国の多数が存在する欧州からあまりにも遠隔の地であるとの理由で、小差で否決されたという経緯がある。
 IFSMA会長となった国の船長協会は一度は自国で総会を開催するのがいわば不文律である。三代目の会長となった川島船長も当然日本で開催すべく熱心に誘致活動をされたが、IFSMA内部の複雑な諸種の事情があり、かなわなかった。
 上述のような経緯は別として、IFSMAへの復帰を果たした日本船長協会には当初から陰になり日向になり総会開催の要請があった。有力船長協会でありながら一度も総会開催の実績のない日本船長協会に対して総会開催を要請するのは当然であろうが、一番の目的は今や国際海運のセンターとなったアジアで総会を開催することによりアジアでのIFSMAの存在感を高め、IFSMAに未加盟のアジアの船長協会の加盟を促すとともにより一層各国船長協会の結束を高めることである。これに対して日本船長協会はまず財政的基盤の確立、そしてなによりも会員諸兄の十分な理解を得てから開催すべきとの慎重な姿勢を取ってきたところである。そして今回、葛西前会長の決断と理事会の全面的な支持を得て開催を受諾したところである。

 

7 月の理事会  

 7 月初旬、ロンドンで理事会が開催された。オンライン及び対面でのハイブリッド会議である。 3 月の理事会には筆者はオンラインで参加したが、 7 月のこの理事会はIFSMA総会前の最後の理事会であり、総会のプログラムなどを詰める必要からロンドンへ出張した。理事会では東京総会に提出される事業報告や次期の事業計画、収支報告そして予算案などの審議など通常の業務が行われ、これに引き続き事務局長の報告が行われた。報告はIMOでの活動が多くを占めている。MASSコード(自動運航船コード)については本誌先号でも報じたが海上安全委員会、法律委員会そして簡素化委員会で審議され、それらを踏まえてMASSコード作業部会が開催された。作業部会ではIFSMAは 3 本の提案文書を提出し部会の議論をリードしていることが報告された。またSTCW条約の根本的な見直しも具体化するなかでIFSMAとしての対処方針を決定するためにIFSMAの作業部会の設置も提案された。
 理事会の終了後、IFSMA会長及び事務局員と東京総会のプログラムについて詰めを行った。細部は今後IFSMA事務局と日本船長協会で詰めることとなるが、大略次のような日程である。
10月25日(水)
 午後 IFSMA理事会
 夕刻 Ice Breaking Reception
26日(木)
 午前 IFSMA総会業務
    各種報告 役員選挙等
 午後 シンポジウム
 夕刻 夕食会(立食)
27日(金)
 午前 シンポジウム
 午後 安全運航支援センター 見学
シンポジウムでは自動運航船と船員の教育訓練に重点を置くことが確認された。MASSコードについてはIMOにおける審議状況についてIFSMA事務局長が説明し、その法律的側面についてはIMO MASSコード作業部会で議長を務められた東京大学の後藤元教授が多忙ななかにもかかわらず講演して下さることとなった。また中村会長が “Proposal of Objective Criteria for Safety Certification (Evaluation)of Automatic Collision Avoidance System” と題して自動運航船の避航システムについてプレゼンし、そして日本財団には “The Nippon Foundation MEGURI2040 Fully Autonomous Ship Program” について講演をお願いしている。
 IFSMAではICS(国際海運会議所)と協働して船長・船員の為の国際法の参考書の発行を計画していたが、元航海士で海事法の権威である Peter J.J. van der Kruit (PhD, LL.M, MPA、で “Legal Handbook Shipmaster” などの著書がある)に執筆を依頼した。彼は 6月に既に脱稿し、現在ICSの法律部門が内容の精査をしているとのことである。順調にいけば東京総会迄に発刊される予定なので、この本を紹介することも予定されている。内容によっては日本語への翻訳も検討に値しよう。
 商船三井から同社の安全運航支援センター(Safety Operation Supporting Center:SOSC)見学のお誘いがあり、これを理事会で提案したところ、是非との声が上がった。IFSMAの会員は基本的に全員船長であるが、総会に出席する会員の多くは元船長でこうした最先端のオペレーションに触れる機会は少ないのが実情だろう。
 今回のシンポジウムはやや小粒ながら内容の濃い船長・航海士にとって時宜を得たものになると信じている。

 次回総会は前述のごとく2025年に予定されていたウクライナにおける総会は2027年に延期されることとなり、2025年はフェロー諸島で開催されることとなった。ウィキペディアによると「フェロー諸島(フェローしょとう)フェロー語: Føroyar、デンマーク語: Færøerne 、英語: Faroe Islands は、
スコットランドのシェトランド諸島およびノルウェー西海岸とアイスランドの間にある北大西洋の諸島。デンマークの自治領であり、デンマーク本土、グリーンランドと共にデンマーク王国を構成する。面積は1398.85㎢、人口は52,337人(2020年 1 月)。中心都市はストレイモイ島のトースハウン。」とある。2019年のヘルシンキにおける総会にはフェロー諸島から同島の船長協会の副会長がカップルで出席しており話をする機会があった。名前は難しくて何度聞いても覚えられなかったが、親しくなりフェロー諸島に遊びに来るなら私達の家に泊まりなさいと言ってくれたことを思い出す。

おわりに  

 理事会で多くの時間をついやした議題は加盟国と会費の問題である。IFSMA創立メンバーであるイタリーも南アも自国に於いて会員数の減少のために船長協会としての体をなさなくなり、すでに脱退している。またアイルランドもベルギーも活動は低調のようだ。
 今や国際海運のセンターとも言うべきアジアにおいては、インドの船長協会(Council of Master Mariners of India CAMI)は会費の問題で折り合いが付かず脱退、かつて総会にかならず出席しており総会開催の意向を示していたパキスタンも今や会費も滞る。最大の船員供給国フィリッピンもこのところ鳴りを潜めている。シンガポールもインドネシアも同様である。
 現会長であるノルウェーのCapt Hans Sande は東京総会における選挙に再び立候補する意向を示し、次の 4 年間はアジアにおける船長協会の活性化に全力を挙げたいという。対立候補があるとは思われないので彼が再選されるであろう。Capt Sande と共にアジアにおける活性化に努めたいと思う。
 幸い韓国船長協会が今回の東京総会にオブザーバーとして参加し、総会の席上正式に加盟を表明するとの嬉しい情報も得ている。
 東京総会の準備には日本船長協会事務局が鋭意取り組んでいるが、なかでも宮川常務理事が直接の担当者として会場の確保やIce Breaking Reception などの手配、外国からの出席者との連絡、講演者との打合せなどに関わっている。IFSMA事務局も日本船長協会が送った各種の資料や情報に基づき魅力的な案内状を加盟団体・会員に回章している。下記は最新のIFSMA Newsletter 66 (2023年7 月発行)の最後の一節である。

“May I remind you that the dates for this year’s BGA are 26 and 27 October and the Japanese Captains’ Association have put on a wonderfully interesting programme for us. There will be a support programme for our partners and family members who accompany us. We will be giving a warm welcome to our newly formed Association from the Republic of Korea who will be joining us formally for the first time as a fully-fledged member of IFSMA. I look forward to seeing you there, so please book early. Paul has sent out all the BGA information. If in doubt please contact us. With my best wishes to you all. ”
Jim Scorer  Secretary General

 今年の総会の日程は、10月26日と27日であり、日本船長協会は私たちに素晴らしく興味深いプログラムを用意してくれました。同行するパートナーや家族のためのサポートプログラムもあります。今回は韓国から新しく結成された船長協会がIFSMAの正式なメンバーとして初めて参加することになり、暖かく歓迎する予定です。みなさんに会えることを楽しみにしていますので、早めの予約をお願いいたします。ポール(事務局次長)から総会の情報がすべて送られています。何か疑問点があれば気軽にお問い合わせていただきたい。
 皆さんに最良のご挨拶を込めて。IFSMA事務局長 ジム・スコアラー

参考資料

1 .「日本船長協会五十年史」 2001年 5 月 1日 社団法人日本船長協会
2 .フェロー諸島 – Wikipedia
3 .IFSMA Newsletter 66  July 2023


LastUpDate: 2024-Jun-13