IFSMA便りNO.27


IFSMA の戦略会議
(一社)日本船長協会事務局

關水 IMO 事務局長を名誉会員に

昨年の12月下旬にロンドンでIFSMAの戦略会議があった。2 日間に亘る会議のあと、新たに IFSMA の名誉会員に選任されたIMO事務局長 關水康司氏への名誉会員証及び記念品の贈呈式を行った。
關水康司氏については本誌404号IFSMA便りNo.18(平成23年8月・9月号)にて紹介したが、1977年に大阪大学大学院工学研究科を修了し、同年運輸省(現:国土交通省)に技官として入省、その後1989年IMOに派遣された。
1993年にはIMOに移籍して、海上安全部長などの IMOの要職を歴任し、2012年1月に第8代目の事務局長に就任された。
日本人として初めての快挙である。今回の名誉会員選任については筆者が直接の窓口であったため、IFSMAの会長からは「君が来ないことには恰好がつかないからね」
と何度も釘を刺されていたので、クリスマス直前のロンドンへ出かけた。
会議の二日目の昼に關水事務局長がスリランカ人で海上安全部の部長代理のアショク・マハパトラ氏を伴って IFSMA の事務所のあるMarine Societyに来られた。
名誉会員証授与は Marine Society の Council Chamberと称する通称「開かずの間」で行われた。
このCouncil Chamberはこれまで英国の船員や海軍軍人の教育に関わった提督や有名船長、教育関係者が理事会などの会議に使用した部屋であり、現在は英国の有形文化登録財の一つだそうである。部屋を開けるには四つの鍵が必要で、しかもその鍵は別の事務所に保管されているという物々しさである。
ここでIFSMAの本部のあるMarine Societyについて簡単に説明しておこう。
Marine Societyは1756年に設立された世界最初の船員の為の慈善団体である。欧州大陸諸国との差し迫った戦争を控え海上輸送路の確保の為、貧しい家庭の子弟を商船船員にあるいは海軍軍人に教育養成するための支援を行うことを目的として創設された。同時にその時代・時代の要請に応じつつも一貫して船員及び海軍軍人の養成のための支援を行ってきた。
現在でも船員に対する最も有力な慈善団体として、船員の教育、職業的キャリアの開発、財政的支援、図書・DVD及びその他のメディアの配布や貸出、助言やガイダンスそしてカウンセリングなどを行っている。ヴィクトリア朝様式のMarine Societyの建物にはIFSMAの本部事務局の他、Nautical Instituteの本部などもある。
Marine Societyの総裁はその時々の海事関係の有名人が就任したが、有名な「新英国海運史」注 の著者であるロナルド・ホープ博士も1970年から1986年まで総裁を務めた。

Marine Socletyのポスター

IFSMA への協力要請

關水事務局長は名誉会員受諾のスピーチでIMOの今年の二つの大きなテーマについて話をされた。その一つは海上の安全強化で、6月に開催予定の将来の船舶の安全(Future of Ship Safety)に関するシンポジウムに向けて具体的な方策を提示すると述べた。
これについては本誌前号(第412号)で山田浩之氏が IMO 便りで説明されているので、ここで引用させて戴こう。
「これは、現在の海上安全の枠組みを超えて、将来の進化した海上安全政策に寄与しようという意欲的なもので、単に強制的な安全規則に従うだけではなく、海事産業全体により強い安全文化が根付くことを意図しています。」
これについて關水事務局長は年明けの最初のIMO会議である第56回防火小委員会の開会挨拶で、海上での死亡者数の半減、海賊襲撃の撲滅、すべての人質の解放が、IMOと海運業界にとって今年の正当な目標となるべきだと述べた。
過去5年間、海上での死亡者数は年間千人を越え、昨年は漁業関係で約100名、国内海運において約400名、国際海運を含むその他の分野で約500名が命を落としたと述べた。事務局長は、2015年までに死亡者数を500名以下に抑えることを目標とするとし、6月のシンポジウムで討議されると述べた。
二つ目は今年の World Maritime Day(9月26日) のテーマとして、“Sustainable development:IMO’s contribution beyond Rio+20”(海運の持続可能な開発:国連持続
可能な開発会議に対する IMO の貢献)を挙げ、それは八つの柱からなっているとされた。
すなわち
-safety culture and environmental stewardship;
安全文化と環境保護への責任
-energy efficiency;
エネルギーの効率化
-new technology and innovation;
新しい技術とイノベーション
-maritime education and training;
海事産業における教育と訓練
-maritime security and anti-piracy actions;
海事産業における保安と海賊撲滅への行動
-maritime traffic management;
海上交通の管理
-maritime infrastructure development; and
海事産業の基盤開発
-global standards at IMO
そしてIMOで策定するグローバルな基準である。
關水事務局長は国連の海事に関する専門機関として、IMOは海事産業全体がGreener and Cleaner となるようリードしなければならないと述べ、IFSMA のより一層の協力と貢献とリーダーシップを求めた。
IFSMAは主としてSTCW条約など人的要因を担当してきたマハパトラ部長代理とは緊密な関係にあり、IMOの信頼も得ているとの自負があるが、關水事務局長のスピーチとパーソナルな協力要請に役員一同は改めて感激したところである。

会長のリンドヴァル船長と關水氏 關水氏と筆者
關水氏とIFSMA役員及び事務局員

戦略会議

IFSMAの戦略会議と銘打った今回の会議は、会長を始めとして役員の半数以上が交代する2014年以降の IFSMAの在り方について意見を交わそうというものである。
二日間にわたって討議したが、關水IMO事務局長の期待に応えるためにも、また会員のためにもIMOでの活動に重点を置く事が改めて確認された。
事務局はIMOの会議日程や議題、具体的に何が審議されるのか、IFSMAとしての対処方針などについて各国船長協会及び個人会員に回章し、IMO会議への出席を要請することとした。また各国協会や個人会員の専門分野について情報を集め、必要に応じて協議することとした。
欧州連合内ではCESMA(Confederation of European Shipmastersハシ Associations 欧州船長協会連合)の存在感が強く、欧州連合の海事関係の審議会や委員会などにオブザーバーあるいはアドバイザーとして出席している。CESMAのメンバーの殆どはIFSMAの加盟協会であり、IFSMAは連携を強化してこうした会合にCESMAと並んで参加するようにすべきであるとの意見もあった。
特にIFSMAは諮問機関としてIMOの審議に加わるという有利な立場でもあり、単に欧州という地域的な利害に止まらずひろく国際的な観点から欧州連合の審議に参加し意見を表明することが可能であり、これは欧州連合にとっても有益ではないかとの指摘があった。
限られた財政と人的資源のもとにあるIFSMAではあるが、その責任感と使命感は旺盛であり、役員及び事務局員の熱意に感じ入った会議であった。

注 Ronald Hope “A New History of British Shipping” First published in 1990 by John Murray(Publishers)Ltd. 邦訳は本書の一部、1870年/1988年間の推移を「英国海運の衰退」として、昨年8月に87歳にて逝去された元日本船主協会常務理事の三上良造氏の物がある。(財団法人 近藤記念海事財団発行)


(一社)日本船長協会 副会長 赤塚宏一

 

LastUpDate: 2024-Nov-25